「このままだと進級が難しいかもしれません」。三者面談や電話で担任の先生からそう告げられて、この記事にたどり着いたのだと思います。
頭の中が一気に「留年」と「中退」の二文字でいっぱいになりますよね。うちの子はどうなるのか、あと何日休んだらアウトなのか、もう手遅れなのか。私も子を持つ親なので、あの落ち着かない感覚は想像がつきます。
この記事は、法令(学校教育法施行規則など)と文部科学省の資料だけを根拠にまとめました。先に、一番大事な結論を言います。
「進級できないかもしれない」と言われた時点で、選べる道は3つあります。留年か中退かの二択ではありません。そして、進級の基準は法律で決まっているのではなく、在籍している学校の規程で決まっています。
「欠席が3分の1を超えたら留年」という話を、どこかで見たかもしれません。あれは法律ではありません。この記事では、その誤解も含めて「本当に決まっていること」と「学校が決めていること」を分けて整理します。
なお、道のひとつである通信制高校の資料は、今の高校に在籍したままでも無料で取り寄せられます。「まだ何も決めていないけれど、移り先の候補だけ静かに知っておきたい」という段階の親御さんが多く使う方法です。
結論|進級できないと言われたときの道は3つある
進級が危ういと分かったとき、親の頭に浮かぶのはたいてい「留年」か「中退」の二択です。でも、実際に開いている道は3つあります。
| 選択肢 | 在籍 | 学年の扱い |
|---|---|---|
| ①留年して今の学校にとどまる | 続く | 同じ学年をもう一度 |
| ②転学する(転入) | 途切れない | 修得した単位に応じて相当学年へ |
| ③中退する | いったん切れる | ―(後日あらためて編入) |
見落とされやすいのが真ん中の②です。「進級できない=留年か、辞めるか」と思い込んでいると、この道が視界に入りません。
ここで、心が少し軽くなる事実をひとつお伝えします。転校は「中退」にはカウントされません。
文部科学省が毎年公表している「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」では、中途退学者の定義に転学者は含まれていません。統計上も、転学と中退はまったく別の扱いなのです。
「学校を移る=中退の仲間」ではありません。制度の上でも、統計の上でも、転学は在籍が続いたまま学びの場所を移す手続きです。
ちなみに同じ調査(令和6年度・令和7年10月公表)によると、1年間で高校を中途退学した生徒は44,571人、中退率は1.4%。理由の内訳は、進路変更が18,505人(41.5%)、学校生活・学業不適応が15,618人(35.0%)、学業不振が2,814人(6.3%)です。
この数字は、後の章でもう一度使います。「留年してとどまる」を選ぶかどうかを考えるときの、大事な材料になるからです。
では、そもそも進級できるかどうかは、何によって決まっているのでしょうか。ここから、多くの親御さんが誤解している2つのポイントを順に見ていきます。
出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(2026年8月確認)
【誤解1】「欠席が3分の1を超えたら留年」は法律ではありません
検索すると必ず出てくるのが「授業日数の3分の1以上休むと留年」という話です。これを法律だと思っている方が本当に多いのですが、違います。
法令には、欠席日数や欠課時数の一律の基準は一切書かれていません。
法令に書いてあるのは「平素の成績を評価して定める」だけ
高校の各学年の課程を修了したと認めるかどうか。この根拠は、学校教育法施行規則第104条第1項が準用する第57条第1項です。
その条文が定めているのは、「児童の平素の成績を評価して、これを定めなければならない」という一文だけ。何点以上とか、何日以内の欠席ならとか、そういう数値はどこにも出てきません。
単位の認定についても同じです。高等学校学習指導要領(解説 総則編)が示している要件は「学校の定める指導計画に従って履修し、その成果が教科及び科目の目標からみて満足できると認められる場合」というもの。ここにも出席時数の数値基準はありません。
つまり「3分の1」という数字は、国が決めたものではないということです。
では誰が決めているのか|学校の学則と内規
実際に基準を決めているのは、それぞれの高校です。学則や成績評価規程、いわゆる内規と呼ばれるもので定められています。
だから学校によってバラバラです。3分の1の学校もあれば、4分の1の学校もあります。基準の置き方も学校ごとに違います。科目ごとの欠課時数で見る学校もあれば、年間の欠席日数で見る学校もある。同じ都道府県の中でも違います。
この「学校が決める」という建て付けは、通信制については法令上さらにはっきり書かれています。高等学校通信教育規程第4条の3では、単位修得の認定に関する基準は校長が計画に記載し、生徒にあらかじめ明示するものとされています。基準は国ではなく学校が定めて示すもの、という前提が条文に表れているわけです。
唯一の正解は「在籍校の規程を確認すること」
ここまでを踏まえると、ネットで「3分の1」を調べても答えは出ません。お子さんの進級を左右しているのは、在籍している高校の規程だからです。
確認したいのは、次の3点です。
- 進級(各学年の課程の修了)の認定基準は、学則のどこにどう書かれているか
- 出席や欠課について基準があるなら、科目ごとの時数か、年間の日数か
- 基準に届かなかった場合の救済措置(追試験・補充指導・課題提出など)はあるか
学則は、入学時に配られた生徒手帳や学校要覧に載っていることが多いです。見当たらなければ、学校に問い合わせれば教えてもらえます。生徒と保護者に関わる規程なので、隠されるものではありません。
「他の学校ではこうらしい」という情報は、判断材料になりません。手元の1冊を開くほうが、はるかに早く正確です。
出典:学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)/高等学校通信教育規程(e-Gov法令検索)/文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」(2026年8月確認)
進級を決めるのは校長|文科省はむしろ「留年に慎重に」と言っている
もうひとつ、知っておくと見え方が変わることがあります。進級や単位の認定を最終的に決めるのは、校長です。
単位認定は「最終的に校長が行う」
高等学校学習指導要領の解説(総則編)には、単位の修得の認定は「教師が行う平素の成績の評価に基づいて、最終的に校長が行う」と書かれています。
卒業についても同じです。学校教育法施行規則第96条第1項により、74単位以上を修得した者について、校長が卒業を認定します。
「職員会議で決まってしまった」という言い方を耳にすることがありますが、職員会議は決定機関ではありません。制度上の判断者は校長です。
文科省の解説は、原級留置に抑制的
ここが、この記事で一番お伝えしたい部分かもしれません。
留年のことを、制度上は「原級留置(げんきゅうりゅうち)」といいます。文部科学省の解説は、この原級留置に対して、かなりはっきりと慎重な姿勢を示しています。
解説には、中途退学の要因のひとつが原級留置に関わるものであるとの指摘もあることを踏まえ、あまりに厳格すぎる学年制の運用は必ずしも適当とはいえないという趣旨が書かれています。
そのうえで、一部の科目の修得が認定されなかった生徒について、一律に原級留置とするのではなく、弾力的に運用することが求められています。
具体策として挙げられているのが、次のような対応です。
- 後日、補充指導や追試験によって未修得の教科・科目を修得することを条件として、次の学年に進級させる
- 修得の見込みがある場合には、条件を付けることなく進級を認める
この2つが、国の解説に「考えられる」と示されているのです。
だから、相談する余地は制度上あります
ここから言えるのは、こういうことです。
「進級が難しい」と言われた段階で、学校に確認・相談する余地は制度上あります。補充指導や追試験の予定はあるか、条件付きの進級という運用をしている学校か。聞いてはいけない質問ではありません。
ただし、正直に書きます。相談すれば必ず救済される、という意味ではありません。解説が示しているのは「考えられる」対応であって、学校に義務を課すものではないからです。運用は学校ごとに違います。
それでも、「もうどうにもならない」と思い込んで動かないのと、「制度上こういう運用もある」と知ったうえで確認するのとでは、話の入り口がまったく違います。
先生に聞くときは、「なんとかしてください」ではなく、事実を確認する形が話を進めやすいです。
- 単位が足りていない科目は、具体的にどれとどれか
- それぞれ、あと何時間・どの課題が不足しているのか
- 補充指導や追試験の制度は、この学校にあるか
- 判定はいつ、どういう手続きで出るのか
この4つが分かるだけで、家の中の空気は変わります。「たぶんダメらしい」が「数学と英語の2科目、あと5時間」に変わるからです。
出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総則編」/学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)(2026年8月確認)
【誤解2】出席扱いになっても、単位が出るとは限りません
お子さんが学校に行けていない場合、「フリースクールに通えば出席扱いになるから、進級できる」という話を聞いたことがあるかもしれません。
ここは、期待して動いたあとでつらい思いをしやすい部分なので、正確に書きます。
通知が「授業への出席とは異なる」と明言しています
高校生が学校外の機関で相談・指導を受けている場合の出席扱いについては、平成21年3月12日の文部科学省通知(20文科初第1346号)があります。
この通知では、出席扱いにするかどうかは校長が設置者である教育委員会と十分な連携をとって判断するとされています。対象は原則として教育委員会が設置する適応指導教室などの公的機関で、それが困難な場合に限って民間施設も対象になり得る、という組み立てです。
そして同じ通知が、はっきりこう述べています。この出席扱いは「科目の履修の認定に当たって考慮される授業への出席とは異なる」と。
つまり、出席扱いになったからといって、それがそのまま単位の認定につながるわけではないのです。
出席扱いは、欠席日数の記録上の扱いの話。単位認定は、科目の履修と成果の評価の話。この2つは別の仕組みです。
小中学校の制度を、そのまま高校に当てはめない
混乱のもうひとつの原因が、小中学校の制度と混ざってしまうことです。
自宅でのICT等を活用した学習を出席扱いにできる、という通知(平成31年3月29日・30文科初第1845号)はよく知られていますが、この通知の対象は義務教育段階です。
また、欠席中の学習の成果を成績評価に反映できるとする学校教育法施行規則第57条第2項は、高校には準用されていません。
小学生・中学生のきょうだいや、下の子の経験があると「同じようにできるはず」と思ってしまいがちですが、高校は制度が別だということです。
高校には、令和6年に始まった「授業に代えて通信教育」がある
では高校には何もないのかというと、そうではありません。不登校の生徒に単位を出すための、正面からの制度があります。
令和6年4月1日に施行された学校教育法施行規則第88条の4です。
対象は「学校生活への適応が困難であるため、相当の期間高等学校を欠席し引き続き欠席すると認められる生徒」。教育上有益と認めるときは、授業に代えて通信教育を行うことができるという仕組みです。
ただし上限があります。自宅等で履修させる遠隔授業や通信教育によって修得できる単位は、合計36単位まで(施行規則第96条第2項第2号・第3項)。卒業要件の74単位すべてをこの方法で埋めることはできません。
この制度を使っているかどうかは学校によります。使う場合の手続きも学校が定めるので、ここも在籍校への確認事項です。
まとめると、こうなります。学校外の場に通うこと自体はお子さんの回復にとって意味のあることですが、それを進級の手段として期待するのは、制度の建て付けから外れています。単位の話は、あくまで在籍校の規程と、こうした正面の制度で確認してください。
出典:文部科学省「不登校児童生徒への支援に関する通知等」/学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)(2026年8月確認)
進級の判定はいつ出るのか|一般には年度末、でも動くのはその前
「いつ決まるんですか」というのも、親御さんが真っ先に知りたいことだと思います。
まず前提として、高校の学年は4月1日に始まり、翌年3月31日に終わります(学校教育法施行規則第104条が準用する第59条)。
単位の認定については、学習指導要領の解説に「その成果が満足できると認められた場合は、通常年度末においてその各教科・科目について所定の単位を修得したことが認定される」という趣旨が示されています。
ですから、一般には年度末。ここまでが、公的な資料から言える範囲です。
「毎年2月に決まる」といった具体的な日程を書いているサイトもありますが、そこまでは国の資料に根拠がありません。学校ごとに違うと考えてください。
もうひとつ、知っておくと役に立つ話があります。単位の認定は、学期の区分ごとに行うこともできます。前期・後期の二学期制で、前期末に一部の科目の単位を認定する学校であれば、年度末を待たずに「この科目は厳しい」という見通しが立つことになります。
判定が出てからでは、間に合わないことがある
ここが実務的に大事なところです。
もし転学という道を検討するなら、判定が出るのを待ってから動き出すと、選択肢が狭まる場合があります。
理由は2つあります。ひとつは、全日制どうしの転学は募集の時期が年に数回しかない自治体が多いこと。もうひとつは、通信制高校でも学年ごとに転入の受け入れ期限が決まっていることです。
3月に留年が確定してから調べ始めると、次に動ける時期まで待つことになりかねません。
もちろん、今すぐ転校を決めろという話ではありません。決めるのはあとでいいので、調べるのだけ先にしておく。それだけで、判定が出たあとの選択肢が残ります。
出典:学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)/文部科学省「高等学校学習指導要領 解説 総則編」(2026年8月確認)
選択肢①|留年して、今の学校にとどまる
ひとつ目の道は、原級留置。同じ学年をもう一度やり直して、今の高校で卒業を目指す道です。
メリットは「環境が変わらないこと」
最大の利点は、変化が少ないことです。
- 通学経路も、制服も、先生も変わらない
- 新しい学校を探したり、手続きをしたりする負担がない
- 部活動や、学校内にいる相談しやすい先生との関係が続く
- 本人が「この学校自体は好き」と言っている場合、居場所が保たれる
体調を崩していた、けがをしていた、家庭の事情で一時的に通えなかった。そういう「一時的な理由で出席が足りなくなった」ケースでは、この道が素直に合うことが多いです。原因が去れば、翌年は普通に通えるからです。
デメリットは「同級生と離れること」
一方で、同じ学年をもう一度やるということは、1つ下の学年の生徒と一緒に過ごすということです。
これまで一緒だった友人は先に進級し、翌年には卒業していきます。同じ校舎の中でそれを見ることになるので、心理的な負担は小さくありません。すでに単位を取った科目の授業を、もう一度受け直す時間の重さもあります。
ここは、本人がどう感じるかがすべてです。「同じ学校で、1年遅れてもいいから続けたい」と言うなら十分に成り立つ道ですし、「あの教室にもう一度戻るのは無理」と言うなら、無理に押し込む道ではありません。
冷静に考えたい「原因は何だったか」
もうひとつ、正直にお伝えしておきたいことがあります。
先ほどの文部科学省の調査で、中退理由の内訳を見ました。学校生活・学業不適応が35.0%。学業不振(6.3%)よりずっと多い数字です。
この数字が示しているのは、高校を離れる理由の多くが「勉強ができない」ではなく「その環境が合わなかった」ことにある、ということです。
だとすると、出席が足りなくなった原因が学校の環境そのものにある場合、留年してもう一年同じ環境に置くと、同じ壁に当たる可能性があります。
脅すつもりはありません。ただ、留年を選ぶかどうかを考えるとき、「本人にとって、来年その環境で通えそうか」だけは親子で確認しておきたいのです。
そこが「合わない」なら、次の②が現実的な道になります。
お子さんが「もう学校自体を辞めたい」と口にしている場合は、高校が合わないと言われたときの全体地図をまとめた記事もあわせて読んでみてください。
選択肢②|転学する(在籍したまま学校を移る)
2つ目が、今の高校に在籍したまま別の高校に移る「転学(転入)」です。
法令上、修得した単位に応じて「相当学年」に転入できる
ここには、はっきりした法令の根拠があります。学校教育法施行規則第92条第2項です。
全日制・定時制・通信制の各課程の相互間の転学または転籍については、修得した単位に応じて、相当学年に転入することができると定められています。
さらに、転入先が単位制の課程であれば、単位制高等学校教育規程第5条により、転学・転籍について「修得した単位及び在学した期間に応じて、相当の期間を在学すべき期間として…許可することができる」とされています。単位だけでなく、在籍していた期間も引き継げるということです。
高校卒業には「74単位以上の修得」と「3年以上の在籍」の両方が必要なので、この2つが引き継げるかどうかは、卒業時期に直結します。
また、施行規則第104条第3項では、特別の必要があり教育上支障がないときは、学年の途中でも学期の区分に従って入学を許可し、各学年の課程の修了や卒業を認めることができるとされています。年度の切れ目まで待たなくても動ける仕組みが、制度としては用意されているわけです。
ただし「必ず学年を落とさない」とは書けません
期待を持ちすぎないように、正確に書きます。
第92条第2項は「転入することができる」という規定であって、生徒の側の権利を定めたものではありません。どの学年に置くか、単位や在籍期間をどこまで認めるかは、転入先の校長の認定によります。
ですから「1年生の単位が揃っていれば必ず2年生になれる」とは言えません。ここは、志望する学校に個別に確認する部分です。
通信制には、学年制のような進級判定が原則ありません
転学先として通信制高校が現実的な選択肢になるのは、この点が大きいからです。
学校教育法施行規則第103条第1項により、高校は「学年による教育課程の区分を設けないことができる」とされています。これが単位制の根拠です。
学年の区分を設けない課程では、そもそも「各学年の課程の修了を認定する」という手続き自体が存在しません。進級判定という関門がないので、それによる留年も構造的に起きないわけです。
あわせて、施行規則第101条第2項により、通信制の課程には学年の期間を定めた第59条などが適用されません。
ここでも正確に書いておくと、「通信制なら留年が一切ない」と断定はできません。制度上は単位制でも、年次を設けて運用している通信制高校もあるからです。言えるのは、学年制の高校のような進級判定による留年は原則ない、というところまでです。
落とした科目だけをやり直せる
単位制のいちばんの利点が、ここです。
学習指導要領の解説(総則編)には、いったん修得した単位は「原則としてそれを再び履修し修得する必要はなく」、しかも全日制・定時制・通信制の各課程の相互間に共通して有効である、という趣旨が示されています。
つまり、学年制の高校で留年すると全科目をやり直すことになりますが、単位制なら修得できなかった科目だけを取り直せばいいということです。
「数学と英語の2科目が足りない」という状態なら、その2科目を積み直して、残りは持ち越す。この差は、時間の面でも本人の気持ちの面でも大きいと思います。
通信制への転入の具体的な流れ、必要書類、時期については、通信制高校への転入を制度から解説した記事にまとめています。
なお、費用の面では、転入すると高等学校等就学支援金の残り期間がどうなるかが気になるところです。前の高校で在籍していた月数の分は使ったことになるため、残りが何ヶ月あるかで自己負担額が変わります。
出典:学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)/単位制高等学校教育規程(e-Gov法令検索)/文部科学省「高等学校学習指導要領 解説 総則編」(2026年8月確認)
選択肢③|中退する
3つ目が、高校を辞めるという道です。誤解の多いところなので、事実を順に並べます。
退学には校長の許可が必要
退学は、届を出したら即その日に成立するというものではありません。学校教育法施行規則第94条により、校長の許可を受けて行う手続きです。
手続きである以上、間があります。この「間」が、あとで大事になります。
修得済みの単位は消えません
これは、ぜひ知っておいてほしい事実です。
単位制の課程を置く高校では、単位制高等学校教育規程第7条により、過去に在学した高校で修得した単位数を、卒業に必要な単位数に加えることができます。通信制高校の多くはこの単位制の課程です。
つまり、中退して後日あらためて通信制高校などに編入する場合でも、それまでに積み上げた単位は持ち込めます。ゼロからのやり直しにはなりません。
ただし、年度の途中で辞めるとその年度分は残らないのが一般的
一方で、注意点もあります。
先に見たとおり、単位の認定は一般に年度末に行われます。ということは、年度の途中で退学すると、その年度に受けてきた授業の分は単位として認定されないのが一般的だということです。
たとえば10月に辞めた場合、4月からの半年分がまるごと単位にならない可能性があります。ここは学校差があるので断定はできませんが、確認しておく価値のある点です。
中退後は「転入」ではなく「編入」になります
言葉の違いですが、制度上は大きな差です。
- 転入:今の高校に在籍したまま、別の高校へ移る
- 編入:いったん退学したあとで、別の高校に入り直す
編入だと、退学から入学までのあいだに、どの高校にも在籍していない期間が生まれます。高校卒業には3年以上の在籍が必要(学校教育法第56条。全日制は3年、定時制・通信制は3年以上)なので、この空白の分だけ卒業のカウントが止まります。
高卒認定の位置づけを、正確に
中退の話とセットでよく出てくるのが、高等学校卒業程度認定試験(高認)です。ここも誤解が多いので、3点だけ押さえます。
1つ目。高認に合格しても「高校卒業」にはなりません。高認が与えるのは大学等の入学資格であって、最終学歴は高校中退のままです。
2つ目。高校で修得した単位は、高認の受験科目の免除に使えます。手続きには在籍していた高校が発行する単位修得証明書が必要です。ただし、仮に免除で全科目が埋まる場合でも、最低1科目は受験する必要があります。
3つ目。逆方向にも使えます。高認で合格した科目は、あらためて高校に入り直したときに単位として認定できます(学校教育法施行規則第100条第1号)。高認を受けたことが、高校卒業の道を塞ぐわけではないということです。
すでに中退している場合、あるいは中退後の進路を具体的に知りたい場合は、高校中退からのやり直しを解説した記事に詳しくまとめています。
出典:学校教育法施行規則(e-Gov法令検索)/学校教育法(e-Gov法令検索)/文部科学省「高等学校卒業程度認定試験」(2026年8月確認)
【順番が大事】退学届を出す前に、必ずやること
ここまで読んで、いちばん覚えて帰ってほしいのがこの章です。
「退学」と「転学」は、制度上まったく別の手続きです。そして、先に退学してしまうと、転学という道は選べなくなります。
転学(転入)は、在学している生徒が学校を移る制度です。在籍していることが前提なので、退学した時点で使えるのは編入だけになります。
在籍したまま動けば、次の3つが残ります。
- 転入という選択肢そのもの
- 在籍期間の通算(卒業に必要な「3年以上」のカウントが止まらない)
- 在籍校を通した書類の手続き(施行規則第92条では、転学は在籍校の校長を経由する建て付けになっています)
だから、順番はこうです。
① 先に、転入先の候補に相談する
まだ在籍したままの状態で、候補の学校に問い合わせます。聞くことは、受け入れの時期、これまでの単位と在籍期間がどう扱われるか、卒業見込みの時期です。
相談したからといって、転校の義務が生じるわけではありません。
② 必要な書類を確認する
転入には、在籍校が発行する在学証明書や単位修得証明書などが必要になるのが一般的です。何がいつまでに必要かを先に把握しておくと、在籍校とのやり取りが1回で済みます。
③ そのうえで、在籍校に相談する
ここでようやく在籍校に話をします。「転学を検討しているので、書類の準備をお願いしたい」という具体的な相談ができる状態になっているはずです。
この順番を逆にして、感情が高ぶったまま先に退学届を出してしまうと、選べる道が1本減ります。在籍は、お子さんが今持っている資格そのものです。手放すのはいつでもできますが、取り戻すことはできません。
この「在籍したまま動く」という考え方は、高校が合わないと言われたときの記事でも同じ結論になっています。進級の話でも、辞めたいの話でも、鉄則は変わりません。
当サイトが基準に置いているN高等学校について
転学を検討する場合の候補として、当サイトではN高等学校を基準に置いています。他の学校がよくない、という話ではありません。比較の物差しとして、情報が公開されていて確認しやすいからです。
進級の話に関係する点を、3つだけ挙げます。
1つ目。単位制なので、学年制のような進級判定がありません。先に見たとおり、学年による教育課程の区分を設けない課程には、各学年の課程の修了を認定する手続き自体がありません。「今年進級できるかどうか」という関門の形が、そもそも違います。
2つ目。単位を積み上げていく形で卒業を目指します。修得できなかった科目だけを取り直せるので、全科目をやり直す必要がありません。
3つ目。転入生の受け入れ機会が多いことです。ネットコースは転入生を随時受け入れており(1・2年次は1月まで、3年次は12月まで)、次の募集を数ヶ月待つという空白が生まれにくい形になっています。
ただし、正直に書いておきます。お子さんの単位がどこまで引き継げるか、就学支援金の残りがどうなるか、いつ卒業できるかは、学校側でないと判定できません。
これまで何単位修得しているか、在籍期間は何ヶ月か、支援金をどれだけ使ったか。この3つはお子さんごとに違うので、ネットの記事では答えが出せない部分です。
だから流れとしては、まず資料を取り寄せて全体像を把握し、そのうえで個別相談で「うちの子の場合はどうなるか」を確認する。この2段階になります。
資料請求は無料で、在籍したままでもできます。取り寄せたからといって、転校する義務は生まれません。
出典:N高等学校公式サイト(2026年8月確認)
状況別に、次に読む記事
この記事は、進級判定という切り口で3つの道を整理したものです。それぞれの道の具体的な手順は、別の記事にまとめています。
- お子さんが「学校を辞めたい」と言っている →高校が合わないと言われたときの4つの選択肢。休学という道も含めた全体地図です
- 転学(転入)を具体的に考えたい →通信制高校への転入の制度・手続き・必要書類
- すでに中退している/中退後の道を知りたい →高校中退からのやり直し方
「卒業率」を探している方へ。じつは通信制高校の卒業率という全国統計は作られていません。理由と、代わりに使える文部科学省の公的データは通信制高校の卒業率は?その統計が存在しない理由にまとめました。
不登校の高校生のその後(退学15.6%・留年4.4%)は高校生の不登校、このままだとどうなる?で国のデータを紹介しています。
休学を考える場合は、高校の休学とは?で就学支援金の「支給停止の申出」を必ず確認してください。
よくある質問
欠席が3分の1を超えたら、確実に留年ですか?
いいえ、確実とは言えません。「3分の1」は法令の基準ではないからです。
法令が定めているのは「平素の成績を評価して定める」ということだけで、欠席日数や欠課時数の数値基準は書かれていません。基準を決めているのは各学校の学則や内規なので、3分の1の学校も、4分の1の学校もあり、学校ごとに違います。
また、文部科学省の解説は、一律に原級留置とするのではなく弾力的に運用するよう求めており、補充指導や追試験を条件とした進級も例として挙げています。
ですので、答えは「在籍校の規程次第」です。手元の生徒手帳か学校要覧を開くか、学校に直接確認してください。
フリースクールに通えば、出席扱いになって進級できますか?
出席扱いになる場合はありますが、それがそのまま進級につながるとは限りません。
高校生についての文部科学省通知(平成21年3月12日・20文科初第1346号)は、学校外の機関での相談指導を出席扱いにできる場合を定めていますが、その出席扱いは「科目の履修の認定に当たって考慮される授業への出席とは異なる」と明記しています。
出席扱いと単位認定は、別の仕組みです。また、判断は校長が教育委員会と連携して行うもので、対象は原則として公的機関とされています。
単位のことは、在籍校の規程と、令和6年施行の「授業に代えて通信教育」(施行規則第88条の4)のような正面の制度で確認するのが確実です。
転校したら、中退扱いになりますか?
なりません。制度上も統計上も、転学と中退は別のものです。
文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」でも、中途退学者の定義に転学者は含まれていません。
転学は、在籍が途切れないまま学校を移る手続きです。学校教育法施行規則第92条第2項では、修得した単位に応じて相当学年に転入できるとされており、単位制の課程については単位制高等学校教育規程第5条で在学した期間も考慮できるとされています。
「学校を移る=中退の一種」ではない、と受け止めていただいて大丈夫です。
全国で、留年している高校生は何人くらいいますか?
正直にお答えすると、原級留置(留年)の人数についての全国統計は存在しません。
文部科学省の調査で毎年公表されているのは、高校の中途退学者数(令和6年度は44,571人、中退率1.4%)や不登校生徒数(67,782人)、長期欠席者数(103,608人)などです。留年者数はここに含まれていません。
ネット上には留年者数らしき数字が出回っていることもありますが、公的な出典が確認できないものは、この記事では扱わないことにしています。
数字が分からないことは不安かもしれません。ただ、判断に必要なのは全国の人数ではなく、お子さんが在籍している学校の規程と、足りていない科目の中身です。そちらは確認できます。
【今夜できる一歩】確認することは2つだけ
最後に、この記事の要点をまとめます。
- 進級できないと言われたときの道は3つ。留年・転学・中退で、二択ではない
- 「欠席3分の1で留年」は法律ではない。基準は在籍校の学則と内規で決まる
- 進級・単位を最終的に認定するのは校長。文科省の解説はむしろ原級留置に抑制的で、追試験や補充指導を条件とした進級も例に挙げている
- 出席扱いと単位認定は別の仕組み。小中学校の制度をそのまま高校に当てはめない
- 判定は一般に年度末。転学を考えるなら、判定を待たずに調べておく
- 「退学」と「転学」は別物。先に辞めると転入は選べなくなる
そのうえで、今夜できることは2つだけです。
ひとつ目。在籍校の学則・成績評価規程を確認する。生徒手帳や学校要覧に載っていることが多いので、まずは手元を探してみてください。見当たらなければ、明日学校に聞けば教えてもらえます。「進級の認定基準はどこに書かれていますか」と尋ねるだけです。
ふたつ目。担任の先生に、単位が足りない科目を具体的に聞く。「進級できそうですか」ではなく、「どの科目が、あとどれだけ足りないか」を聞きます。数字になると、打てる手が見えてきます。
この2つが分かれば、3つの道のどれを本気で検討するかが決められます。逆に言うと、これが分からないうちに結論を出すのは、材料が足りません。
進級できないかもしれない、と言われた日は、親のほうがこたえます。でも、お子さんはもっと前から気づいていて、ずっとひとりで抱えていたかもしれません。
今日できるのは、責めることではなく、地図を広げることだと思います。道は3つある。決めるのは、材料が揃ってからで大丈夫です。
そのうえで余力があれば、転学という道の資料をひとつだけ取り寄せておく。数分で終わりますが、手元に判断材料があるだけで、明日からの学校とのやり取りが少し落ち着いたものになります。
